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民事信託・家族信託

ケース1アパート経営者が認知症になってしまった

山田ひとみさん

山田ひとみさんは相続税の節税対策の一環として、母親である山田花子さんの所有している空き家を売り、売ったお金でアパートを建ててほしいと考えていました。花子さんも娘のためならばと承諾しています。
しかし、空き家がなかなか売れず、時がたち、山田花子さんが認知症になってしまいました。

代表 芝

所有者が認知症になると…

判断能力がない場合、

  • 不動産の売買
  • 賃貸借契約等、すべての契約行為
  • 高額な金銭の引き出し
  • 不動産を担保にお金を借りること
など、さまざまなことができなくなります。

この場合、成年後見制度を利用し、本人のために手続きを代わりに行ってくれる方(成年後見人等)を選ばなくてはなりません。本件の場合、山田ひとみさんが申立人となり、山田花子さんのために成年後見人が選ばれました。

成年後見制度は非常に重要な制度であり、本人の権利擁護のためにも必要な制度です。

しかしながら、裁判所の判断の基準はあくまで「本人のため」になるかどうかですので、「相続税の節税のため(相続人のための行為)」や、「贈与」(受遺者に有利な行為)など、仮に元気な時に山田花子さんが望んでいたことであっても客観的に見て「本人のため」とは言えない行為は、手続きができないのが現状です。
成年後見制度を利用すれば、山田花子さんが元気だった時と同じように何でもできるようになるわけではないのです。
ではどうしたらよかったでしょうか。→民事信託(家族信託)とは

ケース2オーナー株主が倒れて意識不明になった

静岡紳助さん

静岡良助さん(73歳)は従業員を20名抱える会社の社長さんです。
自分で会社を興し、順調に業績を伸ばしてきました。会社の株は100%良助さんが所有しています(ここでは、オーナー株主といいます)。
会社の役員(取締役)は良助さんのみ。良助さんは、ゆくゆくは息子の静岡紳助さんに会社を譲りたいと考えていますが、まだ早いと思っており、生涯現役でいたいと思っています。
ある日、突然の頭痛に襲われ、静岡良助さんが倒れてしまいました。そのまま入院し1カ月たっても意識がもどりません。

代表 芝

会社は株主がいないと運営できない

もしかしたらあまり意識していない経営者の方もいるかもしれませんが、
会社は株主がいないと運営できないのです。

今回のケースでいえば、会社の唯一の役員である良助さんが意識不明になってしまいましたので、大急ぎで会社の役員を選任しなくてはいけません。
役員の選任は株主総会の決議事項ですので、株主総会を開かなくてはいけませんが、オーナー株主である良助さんが意識不明になっているため、株主総会を開催することができません。つまりは会社を代表する人を選ぶことができないため、新しい契約を締結することができなくなってしまいますし、会社の運営に支障をきたすことになります。代表者がいない空白な時間が長くなってしまうと、取引先や金融機関等の関係でも不具合が生じる場合もあります。

この場合は、成年後見人を選任してもらい、意識のない良助さんの代わりに株主として会社運営に携わってもらうなどの対応が考えられますが、現在選任されている成年後見人のおよそ7割が親族以外の専門職後見人(司法書士・弁護士等)であり、会社のことを何も知らない第三者が成年後見人に選ばれる可能性もあります。

では、どうしたらよかったでしょうか。→民事信託(家族信託)とは 任意後見

民事信託(家族信託)とは

民事信託とは、営利を目的とせず、主に家族間で行う信託のことです。
(家族間で行われることから家族信託と呼ばれることもあります)
委託者(財産を預ける人)、受託者(財産を預かる人)、受益者(利益を得る人)の3つの役割があります。
委託者と受託者の間で信託契約を結びます。受託者は信託契約の内容にそった財産管理をしていくことになります。
委託者と受託者が同一人物の場合、自益信託。
委託者と受託者が同一人物ではない場合、他益信託といいます。
民事信託は遺言や成年後見制度ではできない様々な事柄ができます。

民事信託の活用法

ケース1の解決方法認知症対策信託

今回信託をするメリット

  1. 管理運用処分を山田ひとみさんに任せられる

    信託設定後、山田花子さんが病気や認知症等で判断能力が無くなったとしても、不動産売却等信託契約内容に従った処分を、受託者の判断で行うことができる

  2. 委託者兼受益者の場合、課税されない(登録免許税は別)
  3. 信託契約に記載があれば、資産の積極的柔軟な運用が可能
  4. 最終的な財産の帰属先を定めることができる

ケース1の場合、山田花子さんに判断能力があり元気な間に、娘である山田ひとみさんに空き家の売却、その後の不動産購入やアパート建築に関しての権限を「信託」しておきます。アパート建築後の家賃収入等の利益は山田花子さんが受けとり、生活費等に使用することができます。山田花子さんが亡くなった際には、信託が終了するというスキームを組みました。

まずは信託契約を委託者である山田花子さんと受託者である山田ひとみさんとの間で結びます。信託契約の内容により受託者の権限や受益権の内容が決まりますので、どのような内容の信託契約を締結するのかが非常に重要です。
不動産がある場合には、契約締結後、「信託」を原因とした所有権移転登記及び信託設定登記を行います。登記名義人が受託者である山田ひとみさんの名義に移転され、信託契約の一部が登記されます。今後は山田ひとみさんが信託契約の範囲内で不動産の管理運用を行うことになります。

所有権自体が山田花子さんからひとみさんに移転してしまうの?
信託を設定した場合、所有権移転登記がなされ、登記名義人は受託者である山田ひとみさんに変わることになります。
課税はどうなるの?
今回は山田花子さんが委託者兼受益者になります。(自益信託)
信託では受益者課税といい、受益者が誰かにより課税があるかどうかが決まります。
自益信託の場合、贈与税や譲渡税などは課税されません。
ただし、登記を申請する際に信託設定についての登録免許税はかかります(登録免許税不動産価額×1,000分の3(2019年5月現在))
山田花子さんが亡くなったらどうなるの?
信託契約で最終的な財産の帰属先を定めることができます。受益者である山田花子さんの死亡が信託の終了事由となっていた場合、山田花子さんの死亡により信託は終了することになります。信託契約にて、残余財産の帰属先を山田ひとみさんと定めていれば、山田ひとみさんが残余財産を受け取ることになり、遺言と同じような効果をもたらすことができます。
ただし、信託を設定していたとしても遺留分減殺請求の対象になりますので、注意が必要です。

ケース2の解決方法民事信託を活用した事業承継

ケース2では事前に信託設定をしておけば、社長が倒れて意識不明の重体となった場合、受託者である紳助さんの判断で、株主総会を開催し、役員を選任することができます。

今回信託をするメリット

  1. 長生き寿命と健康寿命の差を埋めて、株主が認知症等になった際のリスクに備える

    信託設定後、静岡良助さんが病気や認知症等で判断能力が無くなったとしても、受託者(後継者)の判断で株主総会等が開催できる

  2. 委託者(経営者)が元気なうちは今まで通りの権限を保持できる
  3. 株が分散されず後継者に承継できる
  4. 委託者兼受益者の場合、課税されない

平均寿命と健康寿命には差がある

出典 平均寿命 平成28年厚生労働省簡易生命表より

平成28年厚生労働省簡易生命表によると男性の平均寿命は80.94歳、女性の平均寿命は87.14歳となり、日本は男女ともに平均寿命が80歳を超える長寿大国です。一方で、健康で活動的に暮らせる期間である「健康寿命」は、男性で72.14年、女性で74.79年といわれ、男女ともに平均寿命と健康寿命に差があることがわかります。

「長生きをすることによるリスク」を私たち全員が考えておかなくてはいけません。

年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布

経営者の高齢化が進んでいます。「生涯現役」でいることは素晴らしいことですが、いつかは代替わりしなくてはいけないもの。長生きリスクを考えた事業承継の対策が重要です。
「病気や認知症等によって会社運営に支障をきたす前に、保有する自社株式を後継者に託したいが、議決権はまだ自分がもっていたい」
「信託」を活用すれば、「生涯現役でいたい」という希望もかなえられ、長生きリスクも回避することができます。

ケース2の場合、静岡良助社長(以下、社長という)が元気な間に、息子であり後継者である静岡紳助さん(以下、紳助さんという)に株式を「信託」しておきます。株式の配当金等、利益は社長が取得します。同時に「指図権」を設定し、社長が元気なうちは社長の指図どおりの議決を行うように設定しました。社長が亡くなった後は紳助さんがすべての株式を取得し、信託が終了するというスキームを組みました。

通常、株式を信託すると、受託者である紳助さんが議決権を行使することになります。しかし信託契約に、議決権行使の指図権者を社長である良助さんに設定しておけば、受託者は指図権者(社長)の指図に従って、議決権を行使することになります。

指図権の範囲は、すべての議決とすることもできますし、人事権のみ、もしくは合併などの会社にとって重要な議案のみとするように範囲を狭めることもできます。

指図権は病気や認知症等で判断能力が低下した場合には、指図を受けることなく、受託者が独自の判断で議決権を行使することができるように設定しておきます。

指図権とは
委託者は信託設定の際に受託者による信託財産の管理・処分等について、指図をするものを予め指名することができます。これを「指図権者」とよびます。
指図権の範囲は自由に定めることができます。
課税はどうなるの?
今回では静岡良助さんが委託者兼受益者になります。(自益信託)
信託では受益者課税といい、受益者が誰かにより課税があるかどうかが決まります。
自益信託の場合、贈与税や譲渡税などは課税されません。
静岡良助さんが亡くなったらどうなるの?
信託契約で最終的な財産の帰属先を定めることができます。受益者である社長の死亡が信託の終了事由となっていた場合、社長の死亡により信託は終了することになります。信託契約にて、残余財産の帰属先を紳助さんと定めることができますので、紳助さんに株主名簿の記載を書き換えることになります。これにより、株式が分散することなく後継者である紳助さんに引き継がれ、遺言と同じような効果をもたらすことができます。
信託を設定していたとしても遺留分減殺請求の対象になりますので、注意が必要です。

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